自身のウェブサイト「珍寺大道場」で紹介してきたユニークな神社やお寺は400以上! 日本の珍スポット業界でも最古参の世代に属する小嶋独観氏。その最新刊『奉納百景』は、未婚の死者の結婚式を描く絵馬や浮気防止で釘を打たれた木彫りの男根など、多種多様な奉納物を取り上げている。同書の内容と、趣味と仕事の両立をテーマに話を伺った。
死者供養、縁切り、浮気防止…… 多様な奉納の習俗は「下からの宗教」だ
プロではなく趣味の活動なので楽しいこと以外はしない!
──美大出身だそうですが、美術方面から神社仏閣に興味を持ったんでしょうか。
「建築のデザインの勉強をしていた流れで、日本の寺社建築も好きになりましたね。好きが講じて、学生時代には全国のお寺を巡っていました」
──それがウェブサイト「珍寺大道場」での珍寺のレポートや神社仏閣ライターの活動につながっていくんですね。
「香港旅行で見たタイガーバームガーデンの影響も大きかったです。中国の神話や仏教の世界が題材のテーマパーク的な庭園なんですが、そこにはペンキ塗りのキッチュな神様もいて、『神様って尊いだけの存在ではなく、身近で笑っちゃうような存在でもいいんだな』と気づきました。それが日本で出会ってきた何だか変なお寺と結びついて、珍寺を専門に探す活動をするようになりました」
──当時はネットも黎明期で、珍スポット的な場所の情報もなかったのでは?
「まったくなかったので、ガイドブックや自治体のパンフレットを徹底的に調べて、数行の情報だけで現地に行くこともありました。ハズレの場所も多かったですが、まだ誰も面白さに気づいていない場所を見つける楽しさは今より大きかったです」
──『奉納百景』は、そうやって何千と見てきた神社仏閣の多種多様な奉納物を取り上げた本なわけですね。若くして亡くなった未婚の子の結婚式を描く『ムサカリ絵馬』に衝撃を受けたのが、奉納に惹かれたきっかけだったそうですね。
「1枚1枚に哀しい物語があり、それが密集して置かれた様子には得も言われぬ迫力がありました。子を失った喪失感で何かをせざるをえなかった……という親の気持ちも伝わってきましたね」
──おそらく実際に奉納をした方も、そうやって並んだムサカリ絵馬をじっくり眺めたんでしょうね。
「そうでしょうね。奉納という行為には同じように並んだ奉納物を見て、『苦しんでいるのは自分だけじゃない』と感じる集団セラピー的効果もあると思います。縁切りのような人に言いにくい悩みでも大量に並んだ奉納物から連帯感が生まれて、気が楽になることもあるはずです」
──現在はネットなどで悩みを共有できる時代になったので、だんだんと奉納の習俗も廃れていくのでしょうか。
「奉納をする行動には、自分の気持ちを整理したり、覚悟を決めたりする効果もあります。神様や仏様にお願いをする行為は日常にはないものですし、これからもなくなるものではないと思います」
──木彫りの男根に釘を打ち込み、浮気防止を願って奉納する神社も紹介されていましたが、確かに日常では感じられない凄いパワーを感じました(笑)
「木のちんちんに釘を打ち付けている奥さんの姿を想像すると、つい内股になっちゃいますよね(笑)その姿を旦那さんが見たら、すぐに浮気をやめますよ!」
──また、独観さんが「インディーズ宗教」と呼ぶ、個人が勝手に始めた宗教施設の奉納物も紹介されていました。
「勝手に始めた宗教は教義も歴史もなく規模も小さいので、突飛なもので信者を集めようとする。それで変な神様の像や意味不明な行事が生まれやすいんです。そういうユルいものが好きなんです」
──インスタ映えするスポットとして、奉納者と観光客が集まるお寺も出てきていたりと、人や時代の都合で奉納の在り方が変わってきた施設もありましたね。
「そうですね。紹介した奉納の習俗は、お寺や神社が作ったものではなく、庶民や民間の霊媒師が『困ったらあのお寺に奉納を』と伝えて広まったものなんです。上からではなく下からの宗教なんです。そして時代に応じて在り方を変えていくのが信仰の正しい姿だと思います」
──独観さんは本業を持ちながら神社仏閣ライターとして活動されています。小誌は求人誌なので「仕事をしながら好きなことを続ける秘訣」も伺いたいです。
「あくまで趣味の一環でこの活動をしているので、興味のあること、楽しいこと以外はしないようにしています。プロでもないので、『ここは有名だし行っておこう』という感覚でお寺に行くこともありません。記事を書いてお金を頂くこともありますが、そこに軸足を置きすぎて楽しさが失われないようにも気をつけています。趣味を仕事にしたマニアさんで辛そうにしている人もいますから」
──「好きを仕事に!」とよく言われますが、デメリットもあるわけですね。
「プロとして研究する立場になると、結果も求められますから。そういった義務感はまっぴらごめんだと思い、好きなことだけしています(笑)それに、費用対効果で考えたら、この本なんて足代だけで大変なことになるので、出版すらできないんですよ!『こういう本を出せるのはあなたがアマチュアだからだ』とよく言われて、舐められてるのか褒められてるのか分からないんですが、褒められたと解釈するようにしています(笑)」
INFOMATION
最新刊『奉納百景 -神様にどうしても伝えたい願い-』
【INFO】
神社仏閣ライターの著者が20年近くに渡って収集・調査を続けた奉納物研究の集大成。幼年で亡くなった息子へ捧げる結婚式を描いた絵馬、おねしょ封じで納められるハシゴ、浮気防止を願って釘を打たれた木彫りの男根まで、日本全国84箇所の「知られざる奉納習俗」を、圧倒的な量のフィールドワークと現地取材の臨場感とともに綴る。232ページオールカラー、写真多数!
小嶋独観(著) 駒草出版刊 1620円 発売中
PROFILE
小嶋独観(こじま・どっかん)
日本やアジアの面白い神社仏閣を紹介するウェブサ イト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日 本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大 な仏像等々を求めて東へ西へ。著書に『ヘンな神社 &仏閣巡礼』(宝島社)『珍寺大道場』(イーストプレ ス)、共著に『お寺に行こう! 』(扶桑社)『考える 「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文 芸社)がある。
珍寺大道場
公式HP
最新刊『奉納百景 -神様にどうしても伝えたい願い-』
【INFO】
神社仏閣ライターの著者が20年近くに渡って収集・調査を続けた奉納物研究の集大成。幼年で亡くなった息子へ捧げる結婚式を描いた絵馬、おねしょ封じで納められるハシゴ、浮気防止を願って釘を打たれた木彫りの男根まで、日本全国84箇所の「知られざる奉納習俗」を、圧倒的な量のフィールドワークと現地取材の臨場感とともに綴る。232ページオールカラー、写真多数!
小嶋独観(著) 駒草出版刊 1620円 発売中
PROFILE
小嶋独観(こじま・どっかん)
日本やアジアの面白い神社仏閣を紹介するウェブサ イト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日 本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大 な仏像等々を求めて東へ西へ。著書に『ヘンな神社 &仏閣巡礼』(宝島社)『珍寺大道場』(イーストプレ ス)、共著に『お寺に行こう! 』(扶桑社)『考える 「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文 芸社)がある。
珍寺大道場
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取材・文/古澤誠一郎 撮影/おおえき寿一