100年前の実話を描いた文豪・新田次郎氏の小説『ある町の高い煙突』が実写化され、6月22日より全国ロードショー。18年公開の主演映画『ウスケボーイズ』で注目を浴び、ドラマ『中学聖日記』で役の幅を広げた俳優・渡辺大さんは主人公の関根三郎と交渉にあたる人格者の加屋淳平を演じている。役への想いとともに、海外の映画祭に参加したからこそ実感した仕事への考え方を聞いてみると──。
「世の中は合理的になって、きちんとした答えが出しやすい時代になったと思います。僕も便利さに甘んじて生きてはいますが、人間それだけでいいのかな、と思わせてくれる作品です」
役柄的に初主演の井手君をサポートする意識で芝居を
──渡辺さんが演じた加屋淳平、ものすごくカッコ良かったです!「彼は生き方がカッコイイんですよね。生きていくためには〝長いものに巻かれる〟こともあるのに信念を貫きましたし、企業に属しているからといって利益を追求するだけではなく、第三者にとっての本当の幸せも探し続けている。彼がいないと企業と煙害によって生活を奪われた農民を繋ぐことができないので、現場にいる時は自分自身、できるだけいい人でいようと意識していました(笑)」
──他に、役に説得力を出すために意識したことはありますか。
「井手(麻渡)くんが今回初主演ですし、僕も今年35歳と年齢を重ねてきているので、井手くんをサポートする側に回りたいという気持ちが大きかったです。彼とどのように共生して、いい作品を作っていくか。そう考えて動くことが、作品にも好影響をもたらすのではないかと感じていたんです。加屋は日立鉱山の庶務、井手くんが演じた関根三郎は、煙害に苦しむ農民たちの責任者。お互いが交渉役の代表ですから、彼との関係性は特に重要だと思っていました」
──現場ではどのようなお話を。
「彼は初主演ではありますが(仲代達矢さん主宰の)無名塾で鍛えられているので、芝居の話は特にせず、人となりを知りたくて一緒に食事をしました。ロケ地が茨城県なのに名産を食べず、行ったのは焼肉屋と居酒屋だけでしたが…(笑)撮影が終わる時間帯には、美味しいと評判のお店は営業が終わってしまっていたんです」
──共演シーンはありませんでしたが、仲代達矢さんとはお話しましたか。
「昨年、別の作品で共演させて頂いた時にお話させて頂きました。仲代さんは80歳をすぎてから、自分がどういう仕事をしてきたか、などをお話していらっしゃいました。あの年まで第一線で役者として活躍できるのは一番、理想の生き方。僕もそうありたいと考えています。現場で死ぬのが一番いいのではないかと。死ぬまで役者として求められて生きたいので、仲代さんの教えはとても勉強になりました」
人生遠回りは無駄ではないトライ&エラーの繰り返し
──お仕事に対する考え方も。主演映画『ウスケボーイズ』で海外の映画祭へ行った時の感想を教えて下さい。「錚々たる役者さんたちにお会いしてみるとみんな同じ役者だという感覚で、あまり〝壁が高い〟と思いすぎないほうがいいかな、と感じました。ただし、求められるクオリティは高いので、やるべきことはあるかな、と」
──「壁が高すぎると思わないほうがいい」というのは、一般の仕事にも活かせる考え方でしょうか。
「活かせると思います。今はスピード勝負の時代なので、どうしても結果ばかりに目が行きがちですよね。でも、この作品だって煙突を造るためにトライ&エラーの繰り返しで、失敗を糧にしている。この年齢になって思うことは、遠回りも無駄ではないということ。若いうちは最短距離でゴールに辿り着きたいと思いましたけど、明日や明後日に死ぬつもりはないので(笑)人生が長いと考えた時に、楽しい経験はもちろん、辛い経験も乗り越えて、遠回りをしてもいいのかな、って」
──仕事での困難を乗り越える方法や、対処法も教えて頂きたいです。
「2つあって、1つはいい意味で引きずらないことです。人間は100点を目指そうとしますし、目指すこと自体は悪いことではありませんが、そうはいかないケースもありますよね。だから、自分が満足できない結果だったとしても、次に100点を獲るためにはどうしたらいいかを考えるようにしています。2つ目は、日本のような島国の人間と大陸の人間は、マインドが違うことを認識しておくこと。何かの漫画で読んだのですが、日本人は『失敗したらどうしよう』と、悪い方向のシミュレーションをしがちなんだそうです。ですが大陸の人間は、『ここでホームランを打って、ヒーローになったら』などと、いい方向へのシミュレーションをするそうで。『困難を乗り越えた時にどうしよう』と考えたほうが、結果的にいい方向に作用するのかな、 と僕は思います。楽観的に生きるというわけではなく、成功をイメージする、というのが僕なりの方法です」
──故・津川雅彦さんのお言葉も大事にされているとか。
「津川さんには、『僕たちのしていることは腹の足しにはならないけれど、 心の足しにはなる。そういう気持ちを忘れちゃダメだよ』というのはよくお っしゃって頂いていました。感情を持つ動物は他にもいるかもしれませんが、人間がより多く持つ生き物だと思うんです。そこが人間たる所以だと思うので、直結はしなくても誰かの心に残るものを作ることができるのは、すごく人間らしくていいな、と。そのエンタメの根幹は忘れてはいけないと今も胸に刻んでいます」
──有難うございます。最後に改めて本作の魅力を教えて下さい。
「世の中は合理的になって、きちんとした答えが出しやすい時代になったと思います。僕も便利さに甘んじて生きてはいますが、人間それだけでいいのかな、と思わせてくれる作品です。人間は未完成だけれど理想に向かって生きるという、矛盾してはいますが矛盾があってもいいと感じさせてくれるというか。そこでもがく人間像を目の当たりにして、何かが変わるきっかけにしてもらえたらうれしいですね」
INFORMATION
■映画『ある町の高い煙突』
【INFO&STORY】
1910年、茨城県日立市。急速な近代化が進む中、銅の需要に応えるべく発展を続ける日立鉱山は、排出する煙に苦慮していた。田畑は壊滅的な打撃を受け、怒りに震える住民たちとの補償もままならない中、村の若き代表者・関根三郎(井手麻渡)は、鉱山側の窓口である青年・加屋淳平(渡辺大)と協力して解決策を模索。その熱意はカリスマ経営者・木原吉之助(吉川晃司)と国をも動かし、やがて無謀とも言われた世界一高い大煙突建設への夢へと繋がっていく……。昭和の文豪・新田次郎の同名小説を原作に、日立鉱山の煙害と闘った地元村民たちの実話の映画化。
【CAST&STAFF】
出演/井手麻渡・渡辺大・小島梨里杏・吉川晃司・仲代達矢ほか
監督/松村克弥
原作/新田次郎「ある町の高い煙突」(文春文庫刊)
脚本/松村克弥・渡辺善則
配給/エレファントハウス/Kムーヴ
公式HP
6月22日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー
(C)2019 Kムーブ
PROFILE
渡辺大(わたなべ・だい)
1984年8月1日生まれ 東京都出身
02年にテレビ東京「壬生義士伝〜新撰組でいちばん強かった男」で俳優デビューし、ドラマや映画などで活躍。近年の出演作にドラマ「鳴門秘帖」「中学聖日記」「ミラー・ツインズ」、映画『空飛ぶタイヤ』『散り椿』『ウスケボーイズ』がある。映画『峠 最後のサムライ』は20年公開予定。
公式Twitter
■映画『ある町の高い煙突』
【INFO&STORY】
1910年、茨城県日立市。急速な近代化が進む中、銅の需要に応えるべく発展を続ける日立鉱山は、排出する煙に苦慮していた。田畑は壊滅的な打撃を受け、怒りに震える住民たちとの補償もままならない中、村の若き代表者・関根三郎(井手麻渡)は、鉱山側の窓口である青年・加屋淳平(渡辺大)と協力して解決策を模索。その熱意はカリスマ経営者・木原吉之助(吉川晃司)と国をも動かし、やがて無謀とも言われた世界一高い大煙突建設への夢へと繋がっていく……。昭和の文豪・新田次郎の同名小説を原作に、日立鉱山の煙害と闘った地元村民たちの実話の映画化。
【CAST&STAFF】
出演/井手麻渡・渡辺大・小島梨里杏・吉川晃司・仲代達矢ほか
監督/松村克弥
原作/新田次郎「ある町の高い煙突」(文春文庫刊)
脚本/松村克弥・渡辺善則
配給/エレファントハウス/Kムーヴ
公式HP
6月22日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー
(C)2019 Kムーブ
PROFILE
渡辺大(わたなべ・だい)
1984年8月1日生まれ 東京都出身
02年にテレビ東京「壬生義士伝〜新撰組でいちばん強かった男」で俳優デビューし、ドラマや映画などで活躍。近年の出演作にドラマ「鳴門秘帖」「中学聖日記」「ミラー・ツインズ」、映画『空飛ぶタイヤ』『散り椿』『ウスケボーイズ』がある。映画『峠 最後のサムライ』は20年公開予定。
公式Twitter
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一