あの『やるっきゃ騎士』のマンガ家が近年はランニングの本を次々と発表中
いま読むと「こんなエロいマンガが1980年代の『月刊少年ジャンプ』で連載されてたの……!?」と驚いてしまう『やるっきゃ騎士』。同作の作者でマンガ家みやすのんき氏は、最近はランニングに関する実用書を次々と発表。しかも内容はマンガではなく文章が主体で、フォームについて専門的な見地からの分析まであって驚いてしまう。異能のマンガ家がマラソンにハマった経緯と、その転身のワケを聞いた!
「この人はエッチマンガの巨匠だよ」とか女性ランナーの前で言われたら恥ずかしい!
──『やるっきゃ騎士』などの作品を連載されていた20〜30代の頃はかなり不摂生な生活を送っていたそうですね。
「基本的に起きるのは午後〜深夜過ぎ。深夜に暴飲暴食もしていました。ピークの頃は体重も85kgありました」
──その頃にマラソンに誘われて参加したそうですが、興味はあったんですか?
「40歳を過ぎて、『なにか人生に爪痕を残せたら』と思い、マラソンの完走はカッコいいかもと思ったんです。でも最初に出た大会は、制限時間の7時間を20分オーバーして失格。それで嫌になり、走るのはすっぱりやめていたのですが、50歳過ぎてからまた走り始めたんです」
──そこから1年半でサブスリー(フルマラソンの3時間以内完走)を達成し、体重も55kgまで落としたのは凄いと思いました。本の中では「後ろに蹴るような走り方はダメ、真下に地面を押す走り方が正しい」「膝を高く上げても滞空時間が長くなって減速するだけ」といったことが専門的な見地から詳しく説明されていて、それも深く納得できました。
「効率よく走る方法を探っているうちに、そういった理論にも詳しくなっていきました。でもランニングの仲間と話をすると噛み合わないことが多くて。というのも、僕が本に書いたようなことは考えずに走っている人が多いんですよ」
──走るのは速くても、理論的なことは言葉で説明できない人が多い……と。
「そうですね。ランニングの指導書を読んでもおかしな記述が多く出てきて、開拓できる分野かもと思って書籍化を考えたんです。最初は出版社も『漫画家がガチな指導書を書いても読まれないでしょ』という反応でしたが」
──『走れ! マンガ家ひぃこらサブスリー』を読んで驚いたのが、コミックエッセイでは全然なくて、特に前半の方はガッツリ理論の本なんですよね。
「よくアマゾンのレビューで『マンガ家のくせに文章が多すぎる』と書かれます(笑)」
──でも漫画家さんだけあり、アフリカの選手をはじめ色々な人の走り方をよく観察されていると思いました。
「実際、アフリカの選手の走り方は日本人とかなり違います。しかし指導書によく書かれている『筋肉のつき方が違うし、骨盤が生まれつき前傾しているから』という説明は僕はおかしいと思って。ほかにもそういった俗説はかなりまかり通っていて、一流選手で信じている人もいるんです。なので、そこをマンガ家が正しました(笑)。支持はされているのであながち間違っていないと思います」
──出版後は陸上関係者からは反響はありましたか?
「コーチの方に『読みました。面白か ったです』と言われることも多いですし、『大学の図書館に推薦しておきました』と言ってくれる陸上部の先生もいました。それは嬉しかったですね」
──一方で、みやすさんがランニングの本を書いている現状は『やるっきゃ騎士』などを読んでいた人には驚きのはずです。
「本を買って『10代の多感な時にお世話になり、40歳を過ぎてまたお世話になるとは!』と言ってくれる方もいます。またツイッターでもランニングのことばかりつぶやいているので、『みやすのんきが次にマンガのことをつぶやくのはいつなのか』とも書かれています(笑)」
──15年に『やるっきゃ騎士』は実写映画にもなりましたが、若い読者が増えている実感はありますか?
「それはないですね。サンドウィッチマンさんが『のんきか! みやすのんきか!』と言ってくれたり、ポルノグラフィティさんもライブで『やるっき ゃー?』『騎士!』という掛け合いをしてくれているらしいんですが、名前だけが一人歩きしている感じで、原作を読むまではいかないようです。でも、それでいいと思っています」
──今はマンガの仕事は時々されている感じですか?
「最近は描いていないですね。漫画家は辞めたというと言い過ぎですが、今の状況は僕にとって半分余生なんです。走ることについて書くのも好きでやっているので、仕事の感覚じゃないですね。それは『やるっきゃ騎士』や『冒険してもいい頃』を書いていた時も同じで。僕はエッチなことが好きで、それを表現するのが好きでマンガを描いていましたから。ただ、ランニングの本は『やるっきゃ騎士』とは違い、公立の図書館に入れてもらえるのが嬉しいです」
──昔お世話になったファンの人も図書館で目にしたら驚くかもしれないですね。
「でしょうね。でも僕はなるべく過去をほじくられたくないんですよ。ランニングのイベントや、女性ランナーの前で『この人はエッチマンガ描いてたんだよ』と言われたら恥ずかしいじゃないですか(笑)」
INFOMATION
『サブスリー漫画家 激走 山へ!』
みやすのんき (著)
実業之日本社 1620円
好評発売中!
今年6月に発売された、みやすのんきのマラソンシリーズ第3弾!今回の主題はトレイルランニング。伝統ある「富士登山競走」(標高差3000m)と日本トレラン大会の最高峰「日本山岳耐久レース、通称ハセツネCUP」(累積標高差4582m)へ挑む!
PROFILE
みやすのんき
1962年、東京都生まれ。『やるっきゃ騎士』(集英社月刊少年ジャンプ)にてデビューし、『冒険してもいい頃』『桃香クリニックへようこそ』『厄災仔寵』など実写化、アニメ化作品は多数。『やるっきゃ騎士』は15年に実写映画化し、同作含む過去作品は電子書籍でも発売中。15年に実用書『走れ! マンガ家ひぃこらサブスリー』を発表以降、マラソン、ランニングの著書を多く手掛けている。
公式HP
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みやすのんき (著)
実業之日本社 1620円
好評発売中!
今年6月に発売された、みやすのんきのマラソンシリーズ第3弾!今回の主題はトレイルランニング。伝統ある「富士登山競走」(標高差3000m)と日本トレラン大会の最高峰「日本山岳耐久レース、通称ハセツネCUP」(累積標高差4582m)へ挑む!
PROFILE
みやすのんき
1962年、東京都生まれ。『やるっきゃ騎士』(集英社月刊少年ジャンプ)にてデビューし、『冒険してもいい頃』『桃香クリニックへようこそ』『厄災仔寵』など実写化、アニメ化作品は多数。『やるっきゃ騎士』は15年に実写映画化し、同作含む過去作品は電子書籍でも発売中。15年に実用書『走れ! マンガ家ひぃこらサブスリー』を発表以降、マラソン、ランニングの著書を多く手掛けている。
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取材・文/古澤誠一郎