「僕の作品はどれもわりと観客にウケがいいのですが、評論家は辛口なんですよねぇ(笑)でも今回は評論家の反応もいいので、僕を信用して劇場へどうぞ!」
世界中に熱狂的ファンを持つSABU監督の最新映画『MR.LONG/ミスター・ロン』が12月16日より全国順次ロードショー。主演のチャン・チェン演じるロンとオーディションで選ばれたバイ・ルンイン演じるジュンの親子のような関係、イレブン・ヤオ演じるリリーと青柳翔さん演じる賢次の深い愛、クライマックスの流れるような美しいアクションシーンと、見どころだらけの作品だ。監督には作品の魅力はもちろん、監督業についても聞くと意外な答えが…!
チャン・チェンの意外な面そして食を意識して描いた

「最初に会った時から意気投合しましてね。彼と話している最中からこの作品のストーリーが浮かんで来て、翌日にはほとんど脚本の流れは出来ていました」
──それであんなに素敵な脚本が!作品を撮る上で意識した点は。
「チャン・チェンのクールなイメージを少し壊したいという思いはありました。あとは食ですね。映画では田舎住まいの日本人たちがチャン・チェン演じるロンを受け入れるわけですが、外国人を受け入れるのは少し不安や恐怖があったりします。でも、食だけは諸外国の物を受け入れるんですよね、世界共通で。だから食を通じて希薄だった人間関係が変わっていく過程を描きたかった。日本人たちが後にロンが殺し屋だと知った瞬間、彼らは辛かったはずですが、それでも結局お節介を焼くシーンは、非常に日本人らしいのではないかと思います」
──血のつながらないロンとジュンの父子のような関係に、感動する人も続出すると思います。
「リリーが首を吊った姿を発見した瞬間、ロンはジュンの両目を隠すのですが本当はジュンが泣き出してしまう場面まで撮影したんです。でも映像を編集した時に『何が起きたか子供には理解できないのではないか』と、カットしました。子供が瞬時に事態を把握して泣き出すのは、嘘臭いんかなぁと」
──青柳翔さんも出演されていますが、起用してみての印象は。
「僕、賢次が出ている回想シーンがとても好きで、リリーとのキスシーンにはかなりこだわったんです。一度キスして離れた後に二人が戻り、もう一度キスをする。あのシーンは横浜で撮影しました。背景を行き交う自動車や通行人、カメラに向かって来るバイク等はエキストラではありません。二人が夜の街に溶け込んでいるように意識して撮影しました。あの環境でキス出来る青柳君は最高ですよ」
──本作はこれまで多くの映画祭に出品されていますが、観客の反応は。
「僕の作品はどれもわりと観客にウケがいいのですが、評論家は辛口なんですよねぇ(笑)でも今回は評論家の反応もよくて『これは賞がもらえる!』と持ち上げられた後、ドーンと下へ落とされました(笑)」
新人の心を忘れずにいますその僕をナメる人も…(笑)
──監督デビューして今年で21年目。監督業で意識していることは。「新人の頃を忘れないことです。新人時代って何も分からないから大胆なことにも挑戦できたりしますが、経験するといろんなことが見えてしまうんですよね。脚本を書く時も、『あの場所で撮影したらこうなる』とか、経験するほど小さくまとまってしまいがちなので。その常識を取っ払って、いかに面白いものを作るかが大切なので、毎回できるだけ新人らしくいようと心掛けています」
──どうしたら新人の心を忘れずにいられるのでしょうか。
「それを喜ぶ人も結構いますが(笑)持ち上げられる場所にいる監督業は特殊なんですよね。僕は作品のテイスト自体を毎回変えますし〝SABU組〟なんて作りません。だから常に緊張感があって楽しい。周りを楽しませるた めに現場ではよくしゃべるのですが、それを見て僕をナメてかかる人も(笑)『それは違うだろう!』と思いつつ、線引きが難しい。偉そうじゃないとアカンのか、偉そうだから人がついてくるんかっていうのは今も悩み中です。だけどスタッフは監督を持ち上げたがるものなんですよね。で、『この人のためにやる』という意欲をみなぎらせる。マーティン・スコセッシ監督はそういう空気を持っていますし、いつも黒人のボディーガードが付き添ってます。僕に必要なのも黒人のボディーガードか…」
──あはは!それは不要かと。
「監督業ってスタートとゴールが決まっている部分が好きなんです。『弾丸ランナー』で監督デビューした頃、水道工事のバイトをしていたんです。都庁やお台場に関わりましたけど、あの仕事も始まりと終わりがあるんですよね。しかもいろんな場所へ行くのは撮影と似ている。毎日同じ場所で同じような仕事を長時間こなす人は大変だと思いますが、要はどこに楽しみを見い出すかだと思うんです。僕だって予算がないと言われ続け、今やアイデアと工夫でできるだけ予算をかけずに作るのがクセですし」
──ですが今回は豪華な雰囲気が。
「(予算的に)ヒーヒー言いながら頑張りました(笑)ラストのナイフアクションなんて、時間がなくて最後は昼に見えますけど撮影は夜ですからね。僕の映画は観てもらえさえすれば面白いと判断してもらえるので、口コミでドンドン広めて下さい。海外でも評判がいいので、僕を信用して劇場へどうぞ!(笑)」
INFORMATION
■映画『MR.LONG/ミスター・ロン』
【INFO&STORY】
殺し屋を生業としているロンは、東京・六本木にいる台湾マフィアを殺す仕事を請け負うが失敗し、北関東のとある田舎町へと逃れてくる。日本語がまったくわからない中、心を閉ざした少年ジュンやジュンの母リリーと出会ったロンは、世話好きな住民たちの人情に触れ、やがて牛肉麺の屋台で働くことに。屋台は思いがけず繁盛するが、そこにヤクザの手が迫ってくる。「ポストマン・ブルース」「天の茶助」のSABU監督が、「レッド・クリフ」などで知られる台湾の人気実力派俳優チャン・チェンを主演に迎え、日本で逃亡生活を送ることになってしまった台湾マフィアの青年が、逃げ延びた町の人々との交流を通して徐々に人間らしさを取り戻していく姿を描いた。
【CAST&STAFF】
出演/チャン・チェン 青柳翔 イレブン・ヤオ バイ・ルンイン
監督・脚本/SABU
配給/HIGH BROW CINEMA
公式HP
12月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(C)2017 LiVE MAX FILM / HIGH BROW CINEMA
PROFILE
SABU
1964年11月18日生まれ 和歌山出身
86年、『そろばんずく』で俳優デビュー。初主演映画『ワールド・アパートメント・ホラー』で第13回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。96年に『弾丸ランナー』で監督デビューを果たし、ベルリン国際映画祭出品など国内外に一躍アピール。近年の作品に『疾走』『蟹工船』『うさぎドロップ』『Miss ZOMBIE』『天の茶助』がある。
■映画『MR.LONG/ミスター・ロン』
【INFO&STORY】

【CAST&STAFF】
出演/チャン・チェン 青柳翔 イレブン・ヤオ バイ・ルンイン
監督・脚本/SABU
配給/HIGH BROW CINEMA
公式HP
12月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(C)2017 LiVE MAX FILM / HIGH BROW CINEMA
PROFILE

1964年11月18日生まれ 和歌山出身
86年、『そろばんずく』で俳優デビュー。初主演映画『ワールド・アパートメント・ホラー』で第13回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。96年に『弾丸ランナー』で監督デビューを果たし、ベルリン国際映画祭出品など国内外に一躍アピール。近年の作品に『疾走』『蟹工船』『うさぎドロップ』『Miss ZOMBIE』『天の茶助』がある。
取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一