「僕が今でも強いんだとしたら、それはずっと続けてるからですよ。2、3年ブランクがあると一からやり直しになっちゃうけど、僕は休まず練習し続けてきたから」
格闘技界のレジェンド・桜庭和志が新たな挑戦! 4月11日(水)に開催される、桜庭選手が立ち上げた新大会『QUINTET』は、打撃なしのグラップリング、それも5vs5団体戦・抜き試合(勝った選手が残って次の相手と闘う)によるトーナメントという独自の個性を打ち出すものになった。これまで総合格闘技で数々の名勝負を残してきた桜庭選手が手掛ける、グラップリングの新たな世界とは? 48歳、ベテランとしての心境や強さを保つ秘訣も聞きました。
格闘技は攻撃するもの。誰も防御にはお金を払わない
──桜庭選手がグラップリングの大会をプロデュースするということで、ファンは非常に期待していると思います。「海外ではこういう大会があって、お客さんも盛り上がってるんですよね。日本でも、打撃なしのルールでも楽しんでもらえるかなって。みんなオリンピックで柔道とかレスリング見てるじゃないですか」
──抜き試合の発想はどこから?
「僕はレスリング出身なんですけど、団体戦も体重別の対戦なんですよ。1回ずつの試合で、7人制だったら4勝すればいい。そうすると、途中で勝敗が決まっちゃったら残りが消化試合みたいになるじゃないですか。抜き試合だと、大将を獲るまで結果が分からない面白さがあるなって」
──最後に残された大将が5人抜きで逆転勝利するかもしれない。
「難しいかもしれないけど、可能性はありますよね。1人で2、3人抜いてもメチャクチャ盛り上がりますよ」
──先ほど言われた、独自のルールというのは?
「柔術的なグラップリングじゃなく、柔道の試合みたいに〈指導〉の反則をどんどん取ります。で、指導3回で反則負け。積極的に攻めないと指導が入りますよと」
──あまりじっくり寝技をやる感じではないんですか?
「というより、とにかく攻めろってことですよね。格闘技っていうのは攻撃するものじゃないですか。ディフェンスって、まあ誰でもできるっていうか、相手にしがみついたり踏ん張ってれば、柔道未経験でもある程度は投げられずに済む。だけど柔道の技できれいに投げるっていうのは、ちゃんと練習してないとできないことだから」
──攻撃にこそ、それぞれの格闘技の特色が出ると。
「そうそう。で、お客さんってその技、攻撃が見たくてお金を払うわけで。ディフェンスしてる姿にお金払いたくないじゃないですか、誰も(笑)攻撃して、勝って、お金をもらうのがプロですよ」
──柔道、柔術、サンボと、各競技の選手がチームになっているので、それぞれの技、闘い方の個性も大事な要素ですよね。
「それぞれの技でいかに勝つかですよね。だから他のチームは柔道部、サンボ部みたいな感じで、僕らのチームはまあ、プロレス同好会ですよね(笑)」
──部活でもないんですね(笑)楽しくやろうよっていう。桜庭さんのベースはプロレスリングということになるんですか?
「僕で言ったら、やっぱりレスリングでしょうね。総合格闘技やるにしても、レスリングにいろんな技を付け足していった感じで。軸はレスリングです」
──桜庭選手はキャリア初期から、タックルでのテイクダウン(倒して上になること)を重視されてきたイメージがあります。
「それはもう、基本ですよ。凄く大事です。だって、人間って朝起きたらまず何します? 立って、歩いてトイレ行くでしょ」
──確かにそうです。
「そこからまた歩いて、テーブルのとこに行ってから座って朝ご飯を食べる。立つのは動きの基本なんですよ」
──試合も立った状態で始まります。
「だから、テイクダウンが大事なんです。グラップリングって『寝技限定』と言われますけど、実は立ち技から寝技に持ち込まなきゃいけない。いかに有利な体勢で寝技に持ち込むか、ですよ。柔道もレスリングも、相手を投げて倒せば勝ちですよね、基本」
──そうですね。
「てことは、昔から“倒して上になったヤツが強い”っていうのが闘いの基本なんじゃないかなって思うんですよね。世界的に」
グラップリングは楽しい。練習での動きが面白いんです
──桜庭選手から見た、グラップリングの面白さはそこですか。「それもあるし、寝技もやってて楽しいですよ。人がやってるのを見るのも面白い。それこそ『打撃がないとつまらない』なんてことはなくて。みんな練習での動きが面白いんですよ」
──僕も取材でスパーリングを見ますが、試合より激しい動きの時がありますね。
「僕の場合で言うと、新しい技、新しい動きを身につけたいから、練習ではどんどん動くし、いろいろ仕掛けてみるんですよ」
──試行錯誤というか、結果として動きが出てくると。
「そういう人は多いんじゃないですかね。でも試合になると、負けたくないから手堅い動きになっちゃう選手が多いんだと思います。みんな練習と同じ感覚で闘ったら、かなり面白いはずですよ」
──団体戦だけに、勝ち抜き状況でも闘い方が変わりそうです。
「引き分けだと残れないんで、大将は勝つしかないですよね。相手の残り人数が3人とかだったら、3人に勝たなきゃいけないし」──どんどん一本を取りにいくしかないですよね。「だから、いつもは手堅い試合をしてる人も『QUINTET』だと変わるかもしれない」
──団体戦だから、自分が負けたり引き分けるとチーム全体に迷惑がかかったり。
「指導3回で反則負けなんかしたら大ひんしゅくですよ(笑)それこそ目も合わせてもらえない(笑)でも『QUINTET』に出る選手は、みんな攻める力があると思いますよ」
──桜庭選手自身、現在48歳ですけど若い選手とのスパーリングで一本取りまくってると聞きます。
「どうですかね(笑)でも、僕が今でも強いんだとしたら、それはずっと続けてるからですよ。2、3年ブランクがあると一からやり直しになっちゃうけど、僕は休まず練習し続けてきたから」
──継続は力なりというか、それは主戦場がPRIDEだろうと、新日本プロレスだろうと、グラップリングのスパーリングが練習の主体で。
「好きでやってることですからね。動ける身体を作るにはスパーリングが一番いいっていうのもありますね。走るのは短距離が中心で、それとかロープ登りがウェイトトレーニング代わりです。PRIDEの頃は身体を大きくしなきゃいけないんでウェイトやってましたけど、今は自然な体重でやるようにしてるんで」
──体力の衰えは感じませんか?
「それは感じてますよ。最初は高校から大学に行って感じました」
──早いですね(笑)
「そこからずっと落ちてます。2、3年周期で落ちるんですよね」
──でも強いという。ベテランと呼ばれるキャリアですけど、年齢は気にされますか?
「いや、僕はもともとプロレスでも藤原喜明さんとか木戸修さんが好きなんで」
──いぶし銀タイプが。
「だから若くなくていいです、特に(笑)戦隊ヒーローでも赤より青が好きなんですよ。なんならミドレンジャーでいいっていう」
──あんまり中心でグイグイ行くのは好きじゃないと。でも『QUINTET』はプロデュースもしてますし、完全に主役にならないといけないんじゃないですか。
「いやいや、僕は補欠で」
──あ、ケガ人が出ない限りは試合しないと(笑)
「……だといいなぁ。みんなに『行け!』『前出ろ!』とか言うだけ。ダメですかね(笑)」
【桜庭和志さん取材こぼれ話】
◆団体戦の『QUINTET』ではチーム全体の総体重が決められており、軽量級の選手も交えたチーム構成に。「無差別だと大きな選手だけになっちゃうので。いろんな選手が出て、大きい選手と小さい選手が闘うのも面白いと思うんですよ」◆『QUINTET』ではリングやケージ(金網)ではなくレスリングマットで試合を行う。その理由について桜庭さんはこう解説してくれました。「勝つために試合をするんですよね。ロープや金網を背負う、下がるっていうのはそれだけ勝つ気がないってことなんじゃないですかね。1対1の試合で “モノ(=壁)”を使ってるという時点で1対2になってますもん」
◆選手としてのコンディション作りで意識していることを聞いてみると「ケガをしたら早めに治療するくらいですね」と桜庭選手。ちなみに食事などで「節制はしてないです。せいぜい練習後にプロテイン飲むとか。普通すぎますね(笑)」
INFORMATION
『QUINTET.1 -Grappling Team Survival Match-』
【INFO】
4月11日(水)東京・両国国技館
17:30開場/18:30試合開始
〈出場予定選手〉
HALEO Dream Team
桜庭和志/ジョシュ・バーネット/所英男/中村大介/マルコス・ソウザ
JUDO Dream Team
石井慧/小見川道大/ユン・ドンシク/出花崇太郎/キム・ヒョンジュ
POLARIS Dream Team
グレゴー・グレイシー/チャールズ・ネグロモンテ/グレイグ・ジョーンズ/ダン・ストラウス/宇野薫
SAMBO Dream Team
テオドラス・オークストリス/マリウス・ザロムスキー/ミンダウガス・ベルツビカス/セルゲイ・グレチコ/ビクトル・トマセビッチ
公式HP
PROFILE
桜庭和志(さくらば・かずし)
1969年7月14日生まれ 秋田県出身
レスリング出身で、プロレス団体UWFインターナショナルでプロデビュー。PRIDEで対グレイシー4連勝を飾るなど一時代を築く。その後はHERO’S、DREAM、新日本プロレスなどで活躍。昨年、アメリカのメジャー団体UFCの殿堂入りを果たした。
公式HP
公式Twitter
『QUINTET.1 -Grappling Team Survival Match-』
【INFO】
4月11日(水)東京・両国国技館
17:30開場/18:30試合開始
〈出場予定選手〉
HALEO Dream Team
桜庭和志/ジョシュ・バーネット/所英男/中村大介/マルコス・ソウザ
JUDO Dream Team
石井慧/小見川道大/ユン・ドンシク/出花崇太郎/キム・ヒョンジュ
POLARIS Dream Team
グレゴー・グレイシー/チャールズ・ネグロモンテ/グレイグ・ジョーンズ/ダン・ストラウス/宇野薫
SAMBO Dream Team
テオドラス・オークストリス/マリウス・ザロムスキー/ミンダウガス・ベルツビカス/セルゲイ・グレチコ/ビクトル・トマセビッチ
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PROFILE
桜庭和志(さくらば・かずし)
1969年7月14日生まれ 秋田県出身
レスリング出身で、プロレス団体UWFインターナショナルでプロデビュー。PRIDEで対グレイシー4連勝を飾るなど一時代を築く。その後はHERO’S、DREAM、新日本プロレスなどで活躍。昨年、アメリカのメジャー団体UFCの殿堂入りを果たした。
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取材・文/橋本宗洋 撮影/熊代紀章