アツアツに熱せられたサウナストーンに水をぶっかけ、高温の水蒸気で発汗効果を高める巷で話題の〝ロウリュ〟。こと日本では〝熱波〟とも呼ばれるこの入浴法を、バスタオル片手に伝道し続ける元プロレスラーが、横浜にいる。人呼んで〝サウナ皇帝〟井上勝正。温浴施設を訪れた客に、プロレス仕込みの〝エンタメ〟と〝健康〟を届ける、熱き男の生きざまを追った!!

「〝熱波〟をあえて英語にするなら、僕は〝カタルシス・ウェーブ〟と訳します（笑）」

──〝サウナ皇帝〟を名乗って活動されている井上さんですが、代名詞でもある〝熱波〟はいつ頃から？
「今年で９年目ですかね。もともとはプロレスを辞めて、食ってくために何かしなきゃいけないってなったときに、裏方のスタッフとして、いまの職場に誘ってもらってね。そこで〝熱波〟と出会ったんです。ウチはそこまで大きな施設じゃないし、設備面ではヨソに負ける。でも、コレだったらマンパワーだけで集客につなげることもできるんじゃないかってことでね」

──ここ数年で巷にもかなり浸透した感もある〝ロウリュ〟の、まさに先駆者が井上さんなわけですね。
「自動的にサウナストーンに水が落ちるロウリュサウナは実はウチにもあるんですけど、そういう設備投資をわざわざしなくてもできるのが、僕のやっている〝熱波〟のいいところ。やり始めの頃は、カリカリに焼いたバケツいっぱいの石とアロマ水を持って、全国いろんな温浴施設でパフォーマンスをして回りましたしね。もちろん、それでなにかを売りつけるとかじゃなく、ただただ広めたい一心で」

──まさに伝道師！（笑）。　ちなみに、井上さんの追究する〝熱波道〟には作法みたいなものも？
「そんな大げさなものは何もないですよ。〝アウフグース〟って呼ばれるドイツ式だと、片手でもったバスタオルを頭上で振りまわすのが一般的なんですけど、僕の場合は両手でタオルの端をピンと持って、とにかくお客さんに向かって振りあおぐ感じ。効率性を考えれば前者のほうが楽なんでしょうけど、そこは元プロレスラーの血が騒ぐって言うかね。どうせなら筋肉を使いたいなと思うんで（笑）」

──受けるほうも、やるほうも、しこたま汗をかいてナンボだと。
「現役の格闘家やレスラーにイベントで来てもらうことも多いんですけど、減量中に来たとある選手は１日で５キロも落とせたって、本人も喜んでましたね。１回あたりのあおぐ回数も、最初はお客さんひとりにつき３回とかだったのが、いまはまとめて１０８回。夏でも半分ぐらいしか使ってない身体中の毛穴をカッと開けば、煩悩もどこかに吹き飛んで、生まれ変われるというわけです」

──熱さにひたすら耐えて、キンキンの水風呂で清める。やってることは、ある種の修行ですからね（笑）。
「そうですね。だから〝熱波〟をあえて英語にするなら、僕は〝カタルシス・ウェーブ〟と訳します（笑）。ただまぁ、僕としては楽しく入って身も心もリフレッシュしてもらえるのがいちばん。正しい知識を身につけてさえいれば、子どもからお年寄りまで、誰でも元気になれるのがサウナというものなんで」

──ここでの「正しい知識」というのは、具体的にはどういった？
「発汗によるデトックス効果もそうですが、その他にも高温で身体を熱してストレスを与えるとヒートショックプロテインが発現して、自己修復機能が高まりますし、サウナで身体を熱して水風呂で冷却、それを繰り返すことによってステロイドホルモンの分泌を促進します。それにはアレルギー体質を改善する効果があるように考えています。実は湯船に浸かるほうが内臓にかかる負担が大きいとも言われているぐらいですから、サウナはまさに高齢化が進むこれからの日本にこそぴったりな健康法でもあるわけです」

──なるほど。勉強になります。しかし、かつての人気プロレスラーがいまや〝熱波〟とガチンコで向きあう〝サウナ皇帝〟。人生とは、つくづく何が起こるか分かりませんね。
「もし自分が後輩たちにプロレスを教えて食っていけるようなタマだったら、〝廃業〟なんて言葉は使わず、素直に〝引退〟って言ってただろうし、そのままプロレス界にも残ってたと思います。でも、結局は怪我がそうさせてくれなかったわけだし、いまの僕にとっては〝熱波〟こそが〝天職〟。この先、どうなろうと、『宿命なら背負うし、運命なら変えてやる』ぐらいの気概はいまも持ってますけどね（笑）」

──とりあえず、このインタビューが終わったら、我々も素っ裸で浴場に直行したいと思います。
「ぜひそうしてください。僕の〝熱波〟を浴びれば、出てきたときには気分すっきり。誰もがフェニックスになれるはずなんで（笑）」