お笑いコンビ・浅草キッドとして、一般社団法人「全日本スナック連盟」会長として、八面六臂の活躍を見せる玉袋筋太郎さん。上梓したばかりの著書『スナックの歩き方』を元に、スナック遊びが男の人生に於ける効用やいいスナックの選び方を伝授してもらった。あの恩師の方々とのエピソードとともに、困難な状況を突破し夢を叶える策についても聞いてみると――。
神様はちゃんと見てるんじゃないかなあ。腐る時期があってもいいから〝逆転ホームラン〟を信じて努力は重ねてほしい。
居心地の悪い環境を快適に変えるための訓練にスナックは最適
──ご著書を拝読してスナックの扉を開ける人も多そうですが、若者の間ではハードルが高いお店という印象があるようです。「スナックが居心地が悪いとかハードルが高いってヤツは俺、職場でも成功しないと思うんですよね。自分が都合のいい環境で働ける人間なんてほんの一握りだし、辛い中にほんの少しの面白味を見つけるのが仕事ですから。だからこそ若者にはスナックを体験してほしいんだよなあ。新参者として仲間入りして、居心地が悪い場所を自分なりに快適にしていく作業って、普段から訓練していないとできない。その訓練にスナックは最適なんです。よく新入社員が山奥で、シャバっ気を抜かれる研修があるでしょう? だったらスナックで2週間働いたほうが早いと思うんですよ」
──いい案かもしれません(笑)
「でしょう? スナックには人生を生き抜く術が凝縮されているんです。スナックに行くと、自分が知らない曲をカラオケでオジサンが歌っていたりするわけですよ。でも『何だこの歌』と思いながらも聴いていると、懐メロのスピードラーニング状態になって自然と入ってくる。親父と同年代のオジサンの青春時代の話を聞けば、例えば疎遠だった実の親父とも話の糸口にできるんですよね。人としても男としても、人生のステージが上がると思いますよ」
──自分より上の世代とお酒を飲む機会ってあまりないですからね。
「だからこそ前後左右だけじゃない、縦横無尽のファイトスタイルが身につくわけですよ。世代を問わず話せるようになって、ピンチを切り抜ける術まで得られるんだから、スナックの体験は仕事にもフィードバックできるじゃないですか。しかも、マンパワーを持っていて身の丈で生きている人たちには、ああいう場所じゃないとなかなか巡り会えない。ママなんて9割方バツイチですよ(笑)でも生きるためにスナックを始めて、シングルマザーで子どもを2人ぐらい育て上げちゃったりするんだもん。『会社、潰したんだ』なんて、自分の失敗を軽く凌駕するオジサンもいたりするし(笑)スナックは自分の悩みなんてちっぽけなモンだと気づく場所でもあるし、常連になれば親や友だちには言えない、悩みを打ち明けられる場にもなるんです。現代人に残された最後の止まり木なんですよ、スナックは。若い人たちがあの扉を開けないで人生を終えるのはもったいねぇな、という気がするんですよね」
──ただ、お店選びに苦労する人もいると思います。ご著書の「アルバイトレディ募集の張り紙」は、かなり参考にできそうです。
「募集の張り紙って大抵、相撲のカレンダーの裏側にママの手書きで書いてあるんだけど、必ず時給が載っているんだよね。そこの張り紙から店内の料金を割り出せるんですよ。時給の3〜4倍が飲み代のおおよその目安。店外の空き瓶もプロファイリングとしては分かりやすいんです。山崎が出ていたらちょっと高えぞとか、眞露だったら安いぞこの店は、って」
──ハーナビ(嗅覚を使った鼻ナビゲーション)の活用も必須かと。
「ぐるなびや食べログに頼っちまったら、野生のセンサーは鈍っていくばかりじゃないですか。ハーナビが冴えると相手がどんな人間かも瞬時に見抜けるようになりますから、スナック選び以外にも使えるんです。生まれた時点で人間はサバイブが始まっているわけですから、ハーナビというサバイバル能力は磨き続けて鈍らないようにしないといけない。人生に安定なんかないんですから」
──玉ちゃんクラスの芸人さんでも安定はないんですか!?
「全然ですよ。俺はCMには出てないわ、ゴールデンの番組にも大して出てない。売れていいギャラをもらう観点からすれば、自分の(働ける)エリアは非常に狭い。だって芸名が玉袋筋太郎なんですから、CMが来るわけがない。オファーが来ても断ったことがありますし」
──ちなみに何のCMですか?
「泡の酒。普段飲まないから嘘をついてまで出ようとは思わなかったんです。会社としては都合が悪いタレントだよね。しかも、俺が〝縦穴〟と呼んでる芸能界の縦社会は、地盤が硬くなっちゃって掘れない状態。だから〝横穴〟を掘って、競輪やスナックに幅を広げているわけですよ。いわば道なき道を食うために、必死で掘っているわけです」
──〝横穴〟理論は、一般社会でも役立ちそうな考え方ですね。
「どんな仕事をしていたって、行き詰まる時はありますからね。横穴を掘りたいなら、趣味でも何でもいいんです。俺のスナックだって言ってみりゃあ無理矢理ですから(笑)一般社団法人で『全日本スナック連盟』を作って会長として年間150軒も飲み歩いていると、『何やってるんだろう?』と思う日だってありますよ」
──あはは!〝横穴〟を考え出したのはいつ頃からなのでしょうか。
「30代後半ぐらいかなあ〜。鳥の『四十雀』と『四十から』を引っ掛けて、40歳で何か始めてみようと思ったんです。何かねえかなと模索して楽器を始めたりしたんですけど、何をやっても続かない。だけど40歳の時に競輪という仕事と出会って、没頭できて、そうしたらちゃんと食えるようになってきたんです」
〝横穴〟という道なき道を食う為に必死に掘り続けて今がある
──「ご自身の全て」と語るビートたけしさんからの言葉で、今も大切にしていることはありますか。「弟子になった当初から『なかなか売れねえぞ』とか『苦労するぞ』とはよく言われていましたねえ。今になって実感している言葉が、『若くして売れるな』。若くして売れた芸能人の名前を挙げて『ああいう人間は数年後がないぞ』なんて教えてくれたわけですよ、当時17歳の俺に。それはずっと心に留め置いていて、芸名で遠回りをしているんですけど、これでよかったと今は思いますね」
──若い時代の下積み、辛くありませんでしたか。
「俺が17歳の時ってバブル期だったんです。その時に人生で一番、貧乏な生活をしたんですよねえ。日給1000円で16時間労働する日もあったから、時給に換算したら60円強。でも同級生たちはベンツやソアラを買ったりして、青春を謳歌しているわけですよ。バブルを謳歌したヤツらのことは認めているけど、人生を長いレースに例えると、彼らは人生の〝上がり〟が早い気がするんです。若いうちに遊びすぎちゃったから、今はもう元気がない。一方で俺は彼らの反面を打ってきているけど、絶対にあいつらより遊んでるし、金銭面でも彼らより、〝取り返してる感〟があるんだよね。20代でできることを50代でやるほうがよっぽど楽しい…って、若いと理解するのは難しいだろうなあ」
──そうなんです。若者は努力したうえで早く結果を出したいかと。
「20代の頃は俺らだってしゃかりきに仕事してたよ。それでも芽が出なかったけど、〝逆転ホームラン〟を打った人を間近で見てきているんですよね。この世界に入った時(島田)洋七師匠の付き人をやらせてもらったんだけど、当時の師匠は底を打ってた時期なんだよね。〝あの人は今〟みたいに扱われて、付き人の俺もすげえ悔しい思いをしたし師匠も結構、辛かったと思う。だけど『がばいばあちゃん』で逆転ホームランを打ったわけでしょう。あの時俺、うれしくて泣いたもんね。ウチの師匠だってそうだと思いますよ。フライデー討ち入りやバイク事故があったけど、事故なんて致命的だもん。だけどベネチアで逆転ホームランを打った背中を見せてもらってるからさ。きっと神様はちゃんと見てるんじゃないかなあ。神様って本当はいないんだろうけど、人より何十倍も努力したのに逆転ホームランがない人生って、個人的にないと思う。だから、腐る時期があってもいいから逆転ホームランを信じて努力は重ねてほしい。あのお二人は大スターすぎるけど、逆転ホームランを打ってる人って半径3メートルぐらいの範囲内にいるものなんですよ。そういう人を見つけ出せたら、励みになるじゃないですか」
──そういった励みになる人を探すためとお店選びに困った読者が、東京・赤坂の『スナック玉ちゃん』へ遊びに行ってもいいですか?
「もちろん。ただし(小誌を持ち上げつつ)コレ持参がマストね。一応ウチ会員制だけど、反社会的勢力の方々とか泥酔客の入店を断るための〝決まり文句〟みたいなモノなんですよ。セコムやアルソックと一緒だから、お気軽にどうぞ〜!」
PROFILE
玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)
1967年6月22日生まれ 東京都出身
86年、ビートたけしに弟子入りし、87年に水道橋博士と浅草キッドを結成。今年でコンビ結成30年を迎えた。お酒、スナック探訪、格闘技観戦、相撲観戦、銭湯、競輪など趣味多数。近著に「痛快無比!! プロレス取調室 〜ゴールデンタイム・スーパースター編〜」「スナックの歩き方」がある。また、スナック愛好家として、一般社団法人「全日本スナック連盟」を設立して会長に就任。イベント「スナック玉ちゃん」を開催して、スナック文化の啓蒙活動を行っていて、東京・赤坂に「スナック玉ちゃん」1号店オープンが話題となった。TBSラジオ「たまむすび」金曜レギュラー。
公式HP
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公式Twitter
玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)
1967年6月22日生まれ 東京都出身
86年、ビートたけしに弟子入りし、87年に水道橋博士と浅草キッドを結成。今年でコンビ結成30年を迎えた。お酒、スナック探訪、格闘技観戦、相撲観戦、銭湯、競輪など趣味多数。近著に「痛快無比!! プロレス取調室 〜ゴールデンタイム・スーパースター編〜」「スナックの歩き方」がある。また、スナック愛好家として、一般社団法人「全日本スナック連盟」を設立して会長に就任。イベント「スナック玉ちゃん」を開催して、スナック文化の啓蒙活動を行っていて、東京・赤坂に「スナック玉ちゃん」1号店オープンが話題となった。TBSラジオ「たまむすび」金曜レギュラー。
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取材・文/内埜さくら 撮影/おおえき寿一