「M-1グランプリ2022」で初の準決勝進出を勝ち取った檜原洋平さんと大鶴肥満さんによる、お笑いコンビのママタルト。若手発掘コンテスト決勝の常連で、肥満さんは〝まーごめ〟の持ちネタでも知られる。そんな2人にコンビ結成の話から同世代芸人が多数、準決勝に進んだ今年のM-1について、大学生時代の就活事情、アルバイトの話まで直撃インタビューで聞いてきた。最後は野球好きな肥満さんが野球漫画になぞらえて、まとめてくれました。気になる結婚話の結末は…?
『M-1放送日はテレビで観る日だったけど初めて出る日になりました』
今までテレビで観ていたM-1に参戦できるのでワクワクしてます──「M-1グランプリ」での準決勝進出おめでとうございます。
肥満「取材に合わせて、なんとか間に合いました」
檜原「準決勝進出しておいたほうがいいので」
──過去最多の7261組から選ばれし27組に入りました。
檜原「こんなにも僕たちって面白かったんだと(笑)準々決勝はウケるように頑張ろうと臨んで、去年より手応えがあったので期待はしていました」
肥満「新宿ルミネでの準々決勝で拍手笑いがあったというツイッター投稿を見つけたんです」
檜原「ただ自分の周りの数人が拍手して笑っていると、全体で起きたと感じるので、ぬか喜びはできませんでしたけど」
肥満「ボケのひとつで僕が横に跳ねるシーンがあるんですが、この時は全体を冷静に見ることができて『まー』と言った瞬間に全員が拍手したのが見えた。『これは絶対にいっただろう』。盛り上げることだけを念頭にネタをやったので実って良かったです」
──準決勝進出の27組には同世代芸人が多数。SNSでは〝真空ジェシカ界隈〟とも。
檜原「真空ジェシカの友だち」
肥満「まーごめ界隈とも呼ばれてます」
檜原「かつて芸人5人でルームシェアしていた時期があって、そのうち僕、ケビンス仁木くん、男性ブランコ平井くんの3人が最低でも敗者復活戦にはいっているので感慨深いです」
肥満「まーごめ界隈でありつつ、一緒に住んでいたメンバー、こっちも僕とオズワルド伊藤さんの4分の2が準決勝に。2人とも別のところにも属していてママタルトだけ全部に線が伸びている」
──反響はどうですか。
檜原「決勝進出スゴいはあるじゃないですか。それが準決勝進出でもあって大学時代のバイト先の店長から10年ぶりぐらいにLINEがきました。『ニュースで知ったけどおめでとう』って」
肥満「3年前からどんな結果であろうと『まーごめ』しかツイートしないことにしていてSNSで僕だけをフォローしている、お笑いにあまり詳しくない人はM-1の準決勝に進んだことをまだ知らないです、たぶん(笑)初めてこの四文字だけで1万いいね、いったのでコスパのいいツイートしてますね」
──さすがです!
肥満「芸人の前は塾講師をやっていて当時は当然、本名なので粕谷先生と大鶴肥満がイコールにならない。大人になった教え子からは累計で2人しか連絡がきてないし、結びつかない位置にいます」
──M-1では〝準決勝の壁〟という言葉をよく聞きますが。
肥満「僕らは3回目の挑戦で、準々決勝から準決勝に進む〝壁〟というものを他のコンビの言葉と比べたら重みがない」
檜原「ストレッチーズは6回目の挑戦で初めて」
肥満「ヤーレンズさんは7回目」
檜原「ななまがりさんも7回目で初めて準決勝に進んで」
肥満「その方々が言う『準決勝は厳しい…』と、うちらでは全然違う。同じテンションで言うと『まだ3回目だろ!』と怒られそうな気がします」
──準決勝、決勝が控えます。
肥満「初めてM-1をテレビの前で観ないことが決定しました」
檜原「同日開催の敗者復活戦まではイケるので」
肥満「今まではピザを頼んでコーラを用意してテレビで観ていた。どういう心境の変化になるのかワクワクしてます」
檜原「これまでM-1の放送日はM-1をテレビで観る日で、今年初めて出る日になったのでうれしいです」
『M-1決勝に出た後も変わらず漫才をする笑いを取ることが目標です』
オレはオマエを王にしたいんや!という誘い文句に心が動きました──コンビ結成の話もいいですか。
檜原「前のコンビを解散した日の夜に上京していた同期のZAZYと会ったんです。解散を伝えたらZAZYが同じく同期のコロコロチキチキペッパーズの西野くん、ナダルさんのコンビ結成エピソードを強く覚えていて『次は声がいい人や体がデカい人と組んだほうがいい』とアドバイスをくれた。次の日に大喜利ライブに行ったら大鶴肥満っていう名前に〝肥満〟が入っている良さそうな人がいて、すぐに声を掛けて熱烈アピールしました」
肥満「養成所でコンビを組んでいたけどうまくいかないだろうと薄々は感じていて、でも別の相方候補はいなかった。それで誘われて見つかったから解散は不義理だし、向こうの人生も台なしにしてしまうと決めかねていたら『オレはオマエを王にしたいんや!』と口説かれて王になれるならという理由で組みました」
──肥満さんは芸人になる前、塾講師をしていたんですよね。
肥満「塾の先生を正社員でやってました。内定をもらっていた会社の内定式2日前に断りの連絡をして…。それが親にバレて大学4年の冬に職を探しました。中学生の時に通っていた塾の会社に採用されて働くんですけど生徒獲得の営業がキツくて向いてなかった。勧誘の電話がツラくてツラくて……。働きながらも芸人になろうか悩んでいてR-1グランプリ1回戦に受かったら芸人にいこう、通らなかったら諦めようと。受かったんですよ。それが冬期講習が始まる前日でブロック長と塾長と自分で三者面談して、塾側の事情も考慮して受験シーズンが終わるまで働きました」
──お笑いの道に戻ってきたのは何が大きかったですか。
肥満「さすらいラビー、ストレッチーズは同学年で同じ大学お笑いの出身。プロになってライブに出ているのを見ていて、この2組がゴールデンのバラエティ番組でひな壇に座って賑やかしているのを自分が30歳、40歳になった時に見てどんな感情なんだろう?プラスではない感情が芽生えるだろうなって。だったら一緒に挑戦して輪に加わりたい。ないしは上に行きたい気持ちが強かったですね」
──一方の檜原さんは?
檜原「アダルトビデオ制作会社に内定を頂きましたが僕も卒業直前に辞退しました。『マネーの虎』をネットで見て高橋がなりさんにハマり、引退していた高橋さんが僕らが就活の年から3年間だけ戻ってきて立て直すというのを聞いて受けたんです。一次面接に300人ぐらいいて監督の溜池ゴローさんが試験官でした。30分間3人のグループ面接で25分ぐらい僕1人で熱弁して、企画も50本持って行ってアピールしたらその日の晩に電話で合格を頂きました。ただ、研修中に挫折してしまい採用担当者の人にだけ『お笑いがやりたいので辞めます』と伝えて。そうしたら『芸人とAV監督の2つ夢があるなら先に芸人をやって、諦めたらまたAV監督に再度チャレンジしてください』と温かく送り出してくれました。売れなかったら大鶴肥満とハンバーガー屋さんをやると約束しているんですけど、楽しい世界だったので上手くいかなかったら2人でAV監督を目指そうかな(笑)」
肥満「全然いいよ。けど40歳までに箸にも棒にも掛からなかったらハンバーガー屋を開こう」
──ピザではなく?
肥満「ハンバーガーです。ピザだとオレだけになっちゃうので」
生活のためとはいえバイト優先は本末転倒だと気づいて辞めました
──またM-1の話に戻りますが、優勝した暁にはご結婚を。
肥満「急に現れたんですよ。お付き合いもしていないですし、今はしてくれるとは思えない対応されてますけど。『結婚してくれますか?』と聞いたら『優勝したらいいですよ』と。言質を取ったので結婚後の生活を書面で詰めようかなって考えてます」
檜原「27分の1で結婚。プロポーズ的なことを言った時はまだ2回戦前で千何分の1でした」
──小誌が求人誌なのでアルバイトの話も聞かせてください。
檜原「ピザハットで10年間働いてました。大学4年間は神戸で、上京してから6年間は祐天寺の店でバイトしてました」
肥満「新宿の金券ショップでオープニングスタッフとして始めたての頃は週5フルタイムで働いてました。初めてのことばかりでえげつなかったですね。1回の会計で500万円とか買う人もいるし、買い取りでも全国共通百貨店の商品券を1千万円分持ってくるお客さんもいる。1日3千万とか4千万のお金が動き、締日の10日はとんでもなく混むんです」
──それだけお金が動くと?
肥滿「持ってないのにお金持ちになった気分で最悪でした。ファミレスで3千円分使ったり食生活が荒くなる。目の前に1千万円を出された時はM-1の優勝賞金の重みを体感できました」
──去年の3月にバイトを同時に辞めたのは。
檜原「春と夏の単独ライブを機に単独に集中して生活しようと辞めて、節約しながら生活はできるようになってきました」
肥満「あと、ひわちゃんの友だちで大阪吉本の佐川ピン芸人さんという方のある言葉がきっかけに」
檜原「大阪でまったく仕事がないから東京吉本への移籍を勧めたら『割のいいバイトがあるから離れたくないねん』と言われ、本来はお笑いの稼ぎで生活しなきゃいけないのに本末転倒じゃないかと。それは自分にも当てはまったので辞めようと決めました」
肥満「バイト先である程度の地位を築いていて新宿のレートは僕が決めていた時期もありました。作業が効率化できるエクセルのシートも作成して。『早く辞めろ!』と言うので従いました」
──生活はできましたか。
肥満「お互いルームシェアしていて家賃が安く済んだのと、僕はオズワルドの伊藤さん、蛙亭のイワクラさんがおごってくれたこともあったので」
檜原「僕も家賃が4万円で新潟のファンの人が送ってくれたお米があったので月に6万円ぐらいあれば生活できました」
肥満「マジでお米ってお金だと思いましたね」
──最後に今後の抱負を。
檜原「M-1決勝です。あの登場曲でどうもーって出ていく。子どもの頃から観ていたのでどんな気持ちになるのか知りたい」
肥満「M-1を目標にやってきて初めて準決勝に進出できた。必死に漫才やってライブに出て仮に決勝へ行く夢を叶えた後はどうなるんだろうと。野球漫画の『MAJOR』って分かります?主人公の茂野吾郎がギブソンと戦うためメジャーに行って世界大会でギブソンと彼の息子と対決する。負けるんですけどすべてを出し切って茂野は目標を失う時期があるんです。僕もそうなりそうで(笑)茂野がマイナーリーグにいるギブソンになんでこんなところで、と尋ねるシーンがあるんです。『メジャーリーガーだからさ。ファンが楽しんでくれるのであればそれに向けて野球をする。それがプロだろ』それで茂野も覚醒するんです。うちらもM-1決勝に出た後も漫才をする、笑いを取ることが一番の目標になると思いながら生活してます」
INFORMATION
ママタルト
神戸大学卒の檜原洋平さんと明治大学お笑いサークル木曜会Z出身の大鶴肥満さんが16年にコンビを結成。近年は「マイナビ Laughter Night」チャンピオン大会や「ツギクル芸人グランプリ」など若手発掘コンテストの決勝で注目を集める。「M-1グランプリ」は20年、21年と準々決勝進出。「M-1グランプリ2022」では初めて準決勝に進み、決勝は逃すも12月18日(日)にテレビ朝日系で放送の敗者復活戦に。GERA放送局「ママタルトのラジオ母ちゃん」、「芸人Boom!Boom!ママタルトのラジオまーちゃん」(stand.fm)が放送中。12月25日(日)の「ザイマンドッグ$ミリオネア2」、1月3日(火)の「ダイヤモンドno寄席」に出演する。
左)檜原洋平(ひわら・ようへい)
1991年7月27日生まれ 大阪府和泉市出身
公式Twitter
公式Instagram
右)大鶴肥満(おおつる・ひまん)
1991年7月20日生まれ 東京都練馬区出身
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公式Instagram
ママタルト
神戸大学卒の檜原洋平さんと明治大学お笑いサークル木曜会Z出身の大鶴肥満さんが16年にコンビを結成。近年は「マイナビ Laughter Night」チャンピオン大会や「ツギクル芸人グランプリ」など若手発掘コンテストの決勝で注目を集める。「M-1グランプリ」は20年、21年と準々決勝進出。「M-1グランプリ2022」では初めて準決勝に進み、決勝は逃すも12月18日(日)にテレビ朝日系で放送の敗者復活戦に。GERA放送局「ママタルトのラジオ母ちゃん」、「芸人Boom!Boom!ママタルトのラジオまーちゃん」(stand.fm)が放送中。12月25日(日)の「ザイマンドッグ$ミリオネア2」、1月3日(火)の「ダイヤモンドno寄席」に出演する。
左)檜原洋平(ひわら・ようへい)
1991年7月27日生まれ 大阪府和泉市出身
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右)大鶴肥満(おおつる・ひまん)
1991年7月20日生まれ 東京都練馬区出身
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Interview&Text/立花みこと Photo/渋谷和花