袖の中に格納したｉＰｈｏｎｅがシャキーン！という音とともに手元に飛び出す「仕込みｉＰｈｏｎｅ」。そんな謎すぎる装置を考案・製作し、自ら使用して見せた動画が大きな話題を読んだ森翔太氏。人気ミュージシャンのＰＶ監督からＣＭ出演まで、多方面で活躍を始めている彼に、作品制作に至った経緯や動機を聞いていくと、結論は意外な方向に……。

──美術系の大学出身だそうですが、その頃から作品制作をしていたんでしょうか。
「演劇に少しだけ関わった程度で、実践らしいことは特にしていませんでした。卒業後は総合商社に就職したんですが、あまりのストレスで毎日のように海に叫びに行く状態になって退社して。それから『何か表現的なことがしたいなぁ』とぼんやり考えはじめて、プー太郎状態で東京に出てきたんです」

──それからすぐに表現活動を？
「しばらくは家賃２万円のアパートに篭って、貯金を切り崩して生きているだけでした。途中で話し相手のいない寂しさからか、家の中の物に向かって話しかけるようになって。『これはマズい！』と思って、電気料金の明細に書いてあったサービスセンターに電話をするようになったんです」

──独り身で寂しい人が、話し相手欲しさに迷惑客になってる典型的なパターンじゃないですか！
「最初は『２アンペアと５アンペアの違いを知りたくて……』とか電気のことを聞いてたんですけど、ある時から窓口の女性と毎日１時間ほど雑談するようになって。その後は電話をすると彼女が必ず出てくれて、『私、森さんの担当になったんですよ』とも言ってくれました。東日本大震災のときも、真っ先に心配したのは彼女のことで、あの頃は『組織に閉じ込められた彼女を救ってあげなきゃ』みたいなことを本気で考えていました」

──仕込みｉＰｈｏｎｅの元ネタのスリーブガン（仕込み銃）が出てくる映画『タクシードライバー』のトラヴィスにも似た狂気を感じますね（笑）
「あの映画の『大きな夢に敗れた男が、誰に頼まれもせず、身の回りの事件を無理やり解決していく』というストーリーが大好きなんですよ。助けられる側からすると迷惑な話なんでしょうけど、ちょうど僕も人生の絶望期だったので……」

──そんな時期に作ったのが、あの仕込みｉＰｈｏｎｅだったわけですね。
「そうですね。電気屋で２万円のホームビデオカメラを見かけたときに、『これで何か面白いことをできないかな』と考えて、思いついたものだったんです。ＹｏｕＴｕｂｅにアップした動画が、海外のニュースサイトで取り上げられ、２ちゃんねるのまとめサイトで話題になった後は、映像製作の仕事も入ってくるようになりました」

──ミュージシャン・□□□(クチロロ)のミュージックビデオでは、監督・出演をしつつ「ＰＶで恋をしたい」というチャレンジもしていましたね。
「『ＰＶに出れるんで、僕の家に来て１日デートしてください』って出演者を募集しましたね。受けてくれたコは演技も上手で、バッチリ映像は撮れたんですけど、最後に冗談で『実はＰＶ撮影ってウソで、趣味で自分の部屋で女のコを撮ってるだけなんです』って言ったら、本気でヤバいと思ったらしく、『えっ……』って顔をしていましたね」

──冗談にしても怖すぎますよ！ 最近はＣＭ出演もされていますが、今後の目標などは？
「明確に『これ』ってものが僕にはないんですよね。だからこそ、どんな内容の仕事でも依頼をもらうのは嬉しいし、何でも『面白そう！』と思えるのかもしれません。あと、アルバイトを雇って、仕込みｉＰｈｏｎｅの受注生産をやってみようかと考えています。女子大生のコとかに、夏の思い出づくりに働きに来てもらいたいですね……」

──森さん、結局は仕事にかこつけて、女のコと出会いたいだけなんじゃ……？
「そ、そんなことないですよ！そんな気持ち、あっても２％……いや、20％……40％くらいです」